現場レポート#20:失敗のすすめ

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 スポーツ動作の基本動作と競技動作は似て非なるものです。例えば「投げる」「走る」「跳ぶ」動作は基本動作と呼ばれるものですが、同じ「走る」でも競技によって運動の方向や力の出力のタイミング、特にボール競技においては同じ状況下でのプレーはほとんどないため、単純に「走る」動作が競技にすぐ反映されるかどうかは別。でも基本動作はどのステージでも学びなおす機会は必要だと考えています。

 今回は基本動作の習得によってパフォーマンスに影響すると考えるきっかけとなった文献と実際に直結した事例をご紹介します

内容

・「失敗のすすめ」より

・ランジ動作

・ジャンプ動作

●「失敗のすすめ」より 2022年の筑波大学の研究「運動のばらつきが卓越した運動学習能力を生む〜構成論的”失敗のすすめ”〜」があります。これは、運動学習において、運動誤差の修正には”探索する”時間が必要でこの能力・機能を活用することによって、効率的な運動学習が実現可能である、という内容です。

 つまり、動作の修正には正しい動作を”探索する”繰り返しの行動が必要であり、運動の初心者であればあるほどそこには”失敗”が必ず存在し、その失敗の繰り返しの中から、自ら成功を導き出すことで運動を学習する、と私は解釈しています。

 アスリートはイメージと運動の誤差を素早く修正する能力に長けているし、スポーツ初心者においては誤差の修正に時間がかかる。これはいわば運動経験の違いであり、アスリートは運動技能のレベルが上がるほどエラー(失敗)も繰り返し、その中から成功体験を獲得した、と考えられます。

 然るべきタイミングで指導者の指導が適切に行われたのか、本人が修正能力が高かったのかはわかりませんが、運動指導者においては永遠のテーマであり、指導における考え方の基盤としてこの研究を参考にしています

●ランジ動作 ウォームアップの中にウォーキングランジを入れています。動的なドリルとしてよく見かけるドリルですが、正しく動くのは結構難しいようです。昨日は1人、捕まえて手をかえ、言葉をかえていくとしばらくして「こうか(こう動くのか)!」と感覚を掴んだようでした。このドリルは適切な関節角度を守ることで、前方への推進力の制御、下半身の支持力と重心移動時の骨盤の安定性など様々な要素が含まれています。驚くことに、その直後のパフォーマンスが大きく変化していました。本人も、周囲も認識できるほどです。いわゆる基本動作がプレーに影響する事実を目の当たりにした瞬間でした

●ジャンプ動作 こちらも人の動作を観察したり、イメージを伝えたり、違う動作に対しては「違う」と指摘しながら、個人で”感覚”を探すよう示し、上手くできた時には「できた」と伝えました。できてない事をまず認識させること、ジャンプ動作は踏み込みの姿勢(主に重心の位置と反力の方向)で結果(ジャンプの効率)を確認していましたが、徐々に、その準備動作が効率よくなる事、ジャンプ動作の感覚が良くなる事を共有する事ができました

●まとめ 選手の競技パフォーマンスに起こるエラー動作を観察していくと、基本と言われる動きが基盤となっているのは間違いないのですが、もっと言えば関節の動き(屈曲・伸展・外転・内転・回旋など)が複雑に混在しているのが人間の動作を指導側がいかに見極め、良し悪しを伝えられるか。関節を正しく動かすことで然るべき筋肉が作用し、さらにタイミングや運動の方向を脳が運動のばらつきから正しい運動指令を探索する、そこをどうフィードバックしたりフィードフォーワードの情報を与えるかが課題であり、目指す指導だと思いました。

 「失敗」を繰り返しながら選手は成長します。しかし「成功」のビジョンや感覚を指導者と共有できるような指導が大事だと思います。私ももっと積極的に動きの良し悪しを伝え、その目的を十分理解させて選手自身がエラーを模索したり、エラーを恐れず、成長のステップとして必要な時間だという事を伝え、新たなステージに挑戦できる環境を作っていけるようにこれからも考えていこうと思います。

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この記事を書いた人

現場での活動を通して、スポーツについて思うこと、選手と指導者、チームとの関わり方、目標とする大会へ向けての準備(コンディショニング)について書いています。バレーボーラーの日頃の活動の+αに繋がれば幸いです。

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